バートランド・ラッセルの名言・警句( Bertrand Russell Quotes )

ラッセル英単語・熟語1500

 懐疑主義(懐疑論)は、論理的には非の打ちどころがないが、心理的には不可能であり、それを受け入れるふりをする哲学には、軽薄な不誠実さの要素がある。
 さらに、もし懐疑主義(懐疑論)が理論的に擁護できるものであるならば、経験されたものからの推論を全て拒否しなければならない。
 (また)誰も経験しない(誰にも経験されない)物理的事象を否定するような,部分的な懐疑主義(懐疑論)は、あるいは、自分の将来や覚えていない過去の事象(出来事)を許容する独我論は、自分が拒否する信念につながる推論の原理を認めなければならないので、論理的な正当性が全くない。

Scepticism, while logically impeccable, is psychologically impossible, and there is an element of frivolous insincerity in any philos ophy which pretends to accept it. Moreover, if scepticism is to be theoretically defensible, it must reject all inferences from what is experienced; a partial scepticism, such as the denial of physical events experienced by no one, or a solipsism which allows events in my future or in my unremembered past, has no logical justification since it must admit principles of inference which lead to beliefs that it rejects
Source: Human Knowledge, 1948,
More info.: https://russell-j.com/cool/HK_1948.pdf

<寸言>
 懐疑主義(懐疑論)は、ヒュームによる徹底した懐疑主義とデカルトの方法的懐疑が有名ですが、論理的側面と心理的側面の両面で考える必要があります。
 徹底した懐疑主義を本当に受け入れると、(何も信じることができないことから)心理的には大変なことになり、日常生活を送れなくなってしまいます。また、徹底的な懐疑主義や独我論(自身の経験(すること)以外には、何事かを主張したり否定したりする合理的な理由(論拠)は存在しないという説)は、論理的には否定できないとしても、あまり生産的なものでもありません。たとえば、ある独我論者に対して、ラッセルは『私の哲学の発展』次のような皮肉を言っています。
 https://russell-j.com/beginner/BR_MPD_15-140.HTM

「・・・。この種の分析が重要なのは、私の個人的経験の限界(制限)を超える文の理解に関するものである。 「私が一度も会ったことのない人が存在する」というような文をとってみよう。 我々は皆この文が真であると信ずる。 独我論者ですらも、他の独我論者に出会ったことがないということで驚くのに、私は気づいている。(訳注:この一文はわかりにくいと思われる。「I have found that even solipsists are surprised by the fact that they have never met any other solipsist.」とい文にはラッセルの皮肉が含まれている。即ち、哲学的な独我論者は自分の認識しか信用せず、この世界は自分の脳が描いた錯覚かも知れないと思っている。しかし、そのような他者の存在を疑う独我論者が、自分の考えを他の哲学者が理解してくれないとぼやくのは、独我論者の態度としておかしいのではないかというラッセルの皮肉。つまり、独我論者でさえ「私が一度も会ったことのない人が存在する」という命題を真だと信じている、ということ) 。重要な点は、「私が一度も会ったことのない人が存在する」という文におい て、私が一度も会ったことのない人は、個別的に(訳注:誰々さんとして)示されてはいないという点である。」

 なお、鎮目恭夫(訳)『人間の知識』(みすず書房版バートランド・ラッセル著作集第9巻)では、不注意のためか、"solipsism" を「懐疑論」と訳しています。意識的にそうしたかも知れませんが、それではニュアンスがかなりちがってしまいます。

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