三浦俊彦による書評

★ 福田和也『第二次大戦とは何だったのか?』(筑摩書房)

* 出典:『読売新聞』2003年5月25日掲載


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 「最も戦争を望まなかったのは日本、最も望んだのはアメリカ」「蒋介石が戦うべきだった相手は大英帝国」等々、本書の底流をなす大戦観のほとんどに、私は同意できない。にもかかわらず、何度ふかぶかと頷かされたことか。真の文芸作品になりおおせている証しだろう。
 ド・ゴールをヒトラー以上の独裁者と見、ルーズヴェルトとスターリンを両極端のアパシィで共感した双子のように眺め、チャーチルの一面的な戦争観を検証し……単純化されがちな第二次大戦論の重層化を促す立論は挑発的だ。
 家庭感覚の政治の先駆を読み取る東條英機論は、現代ビジネス論としても面白い。危機にあってこそ国民の支持を集めた各国指導者と違い、戦況好調な時だけカリスマ性を発揮できた東條に「成功こそリーダーの要件」とする日本的風土が垣間見えるという。この筆致で次は、戦争指導者論だけでなく、参戦を回避した指導者(たとえばスペインのフランコ)論を読みたいものだと思った。