三浦俊彦による書評

★ ピエール・ルイス『ビリティスの唄』(水声社)

* 出典:『読売新聞』2004年3月21日掲載


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 ドビュッシーやフランシス・レイの音楽、デイヴィド・ハミルトンの映画と写真集などでほとんど一ジャンルを形成した、けだるくもまばゆいエロチックな香気。その原典は、古代ギリシア女流詩人の作品の翻訳と称して十九世紀末フランスで創作発表されたこの偽書である。
 ギリシア研究者として出発したルイスの凝りに凝った構成により、古典学者らもすっかり騙され、知ったかぶりの恥をさらした逸話がいくつも伝わっている。遺跡捏造や経歴詐称が物議をかもした今日こそ、こうした芸術的捏造遊びをゆったり楽しむ意義があるだろう。
 ルイス評伝の著者でもある訳者が、鈴木信太郎、生田耕作らの旧訳を尊重しつつ、偽書の狙いを汲み取ってフランス色よりギリシア色を強めたという工夫が見どころ。神話、牧笛、小川、同性愛、異性愛、そして子供たちに性的な戯れをそそのかす遊女のきわどい場面ですら、世紀末のアジア趣味的異次元のムードへ淡く融け滲んでゆく。沓掛良彦訳。

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