三浦俊彦による書評

★ ジョアオ・マゲイジョ『光速より速い光』(NHK出版)

* 出典:『読売新聞』2004年2月15日掲載



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 アインシュタインの相対性理論を覆す「光速変動理論」の成長記。といっても、よくあるトンデモ疑似科学本ではない。二十世紀末、正統的な業績のかたわら革命的な学説を提唱した若いポルトガル人物理学者の奮戦記である。
 新機軸を競うケンブリッジの風土においてすら、アインシュタインに逆らうことが当初いかに「気まずい沈黙」を生み出したか。険悪な先着権争いがいかに親密な共同研究へ発展していったか。その種の研究上のエピソードだけではない。お役所的書類仕事に圧迫される大学運営。間違いだらけの学術誌の査読システム。そんな制度的弊害に対し、外国人ならではの苦吟体験にもとづく毒舌・告発が次々に炸裂する。
 丹念に解説される「光速変動理論」が正しいかどうかは、学界で目下論争中という。この画期的な理論が生きのびるか否かにかかわらず、著者の超過激なブラックユーモアが、並の小説を凌ぐ哄笑芸術として記録されるべきことは確かだ。

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