この小説のタイトルが、ゴダールの映画のタイトルをもじったものだというほどのことも本文で言われるまで知らず読みすすめていた私のような読者は、端ばしに仄めく外部との豊穣な関わりを、執筆舞台ともに十年前だった『小春日和』の続編という事実以外は気にせず、もっぱら内在するディテールのみ辿る楽しみ方を終始決め込まざるをえなかったようだ。そして実際、一八七頁にこけしが話題にのぼれば、前に出てきたよな、どこだっけと頁繰り戻し、長い夜話が一九三頁突然翌昼へスイッチするとともに台所のデジャ・ヴュが被さる一見無雑作なこういう転換っていいなぁとか、世知長けた将来の「美人若おかみ」由美子って、え、「脚が太いしO脚気味だ」ったの、と一九八頁で教えられれば俄然愛しく親しく思えてしまったり、そういうのだけでも十分酔えた気になれるこの小説だ。