三浦俊彦による書評

★ クリスティン・フォン・クライスラー『火事を知らせる猫 贈り物をする犬』(光文社)

* 出典:『読売新聞』2003年6年8日掲載


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 盲導犬など犬猫をはじめ、馬、豚、サル、クマなどが、人間や他の動物に対しやさしさや、自己犠牲的勇気を示した実話集。動物の感動話をこれだけたくさん一度に読むと、なるほど気分がよくなるものだ。地球規模の本能に裏付けられた普遍道徳が見えてくるというか、人間界の奥行きが一挙に拡がるからだろう。
 動物科学は、恐怖や怒りといった否定的反応はさかんに研究しながら、「やさしさ」はなぜかあまり扱わない。利他的に見える行動も、実は利己的か反射的な動きにすぎないとする「科学的説明」に、著者は繰り返し異を唱える。動物には人間並みの思いやりの心があると単純に考えてどこが悪い、と。
 人間社会が行き詰まっているのは、たしかに、コミュニケーションを人間だけで完結させる建前のせいに違いない。知的な動物たちを「人格」として心底遇すれば、世界の立体視が可能になるよ、と正面から教えてくれるエピソード集である。

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