ソーカル事件(九六年)を覚えておられるだろうか。ポストモダン思想の安易な相対主義がはびこり、科学が圧迫されていると感じた米国の物理学者アラン・ソーカルが、ポストモダン風の比喩をちりばめた無意味な論文をこしらえて当該分野の学術誌に投稿するという囮捜査をしたところ、審査を通って掲載されてしまったという事件だ。華麗にして難解なポストモダン哲学が実はいかにいい加減な代物だったかをこうして実証したソーカルが、引き続きラカン、ドゥルーズらの著作のイカサマを具体的に指摘した告発本『「知」の欺瞞』(岩波書店)は日本でもロングセラーとなり、フランス現代思想という裸の王様の正体を暴くのに貢献した。