三浦俊彦「アドホック日記」(2002年8月13日) - アメリカミズアブ
日記索引
不思議だ!
といっても、ムシたちに興味のない人々には全然不思議でもなければ面白くもないかもしれないが。
でも不思議だ!
アメリカミズアブの幼虫の姿が見えないのだ。
驚きだ。あの幼虫どもが……。
まず説明しよう。『キャノワーム』という、タライを3層重ねて、水受けのタンクにかぶせたような形をしているオーストラリア製生ゴミ処理器にミミズ2万匹を飼育し、お茶殻から果物の皮、新聞紙からダンボールに至るありとあらゆる炭素系有機物を投げ入れて庭用堆肥に変えてもらっているのだが、そう、それで、最上層のタライがいっぱいになったら、最下層のタライをどっこいしょとはずして中身を庭に撒く(ミミズもいっしょに放たれて庭に住み着くことになる)、そして空になったタライを一番上に乗せる、というのを繰り返すわけだ。だいたい1~2ヶ月ごとに。
で、取り替えるときに、タライの接触面にミミズを主とする土壌生物たちの姿がバッチリ見られるというわけです。
で、このたび『キャノワーム』の中身を取り替えたのだが、 例年ならば今のこの季節、キャノワームの中はアメリカミズアブの幼虫でごった返しているはずなのである。あのゾウリ状の、尖端がとんがった、全身固い甲羅で覆われているにもかかわらずくねくねと曲線的にのたうつ強力なウジムシの大群が、完全にミミズの生態系を乗っ取り、ミミズたちを底辺に押しやって、キャノワーム全体に我が物顔にのたうって、ミミズの何十倍ものスピードで生ゴミをバリバリ食い尽くしてゆくのだ。ほんと、ミチミチミチミチと蓋の外に音が洩れてくるほどなんだから。こいつらが殖えるとキャノワーム内が酸性になってしまい、ミミズが住みづらくなる、とキャノワーム販売元のHPには説明されている。意味はよくわからないが、土壌生物ではない、とも書かれていたのをどこかで見た。とにかくあまりたちのよいムシではないらしい。で私もはじめのうちは、ミミズの天敵とばかりアメリカミズアブ駆除に苦慮していたのだが、昨年から駆除はとうてい無理と諦めて、こいつらはこいつらで居させてやろう、見るからにミミズより強靭な生命力、大地一体波打たせるほどの人口密度・大繁殖光景も見ものじゃないか、麦茶のティーバッグやリンゴの芯を入れとくと10分もしないうちにうじゃうじゃアメーバ状に動くウジ団子を形成してしまう悪魔のような食欲生命力、ミミズと違って夏だけの命だし、なんたって昆虫じゃないか、生命の神秘じゃないか、かわいいもんじゃないかと愛で始めていたところなのだ。すると皮肉なことにそいつらがなんと、今年は、一匹もいない!
驚くべきことだ。
7月に取り替えたときもいなかったので、今年は出現が遅いな、と訝しく思っていたのだが、夏も盛りを過ぎようという今もいないとなると、これは……。
アメリカミズアブの成虫は、キャノワーム内の生ゴミの臭いを嗅ぎつけて例年どおりブンブン周りを飛び回っていたので(ホラ、よく見かける黒いアブですよ)、そして去年までと同様、タライの層の隙間に黄色い粒々卵が何箇所にも産み付けられているので(タライとタライの間にお尻を突っ込んで産卵するのである)、幼虫がほとんど一匹も見当たらないのが不思議だ。不気味ですらある。はじめの頃はアメリカミズアブの大群の方が不気味だったのだが。
可愛いがろうと決めた翌年から来なくなる。なんというかマーフィーの法則というか人生変なもんだなァ。
というわけで今年は、夜になるとミミズたちが心置きなく表面に浮上してきたりして、快適そうである。
なぜアメリカミズアブが居ないのか?
仮説としては次のものが考えられよう。
★仮説1/異常気象のせい。……しかしこれは、アメリカミズアブ成虫がキャノワームのまわりを舞っている風景は例年どおりひんぱんに目撃しているのだから説明として不可。
★仮説2/以前は生ゴミがかなりたまってから交換していたので、上に乗せたタライの底が浮き、下のタライとの間に隙間が大きくあいて、アメリカミズアブが卵を産み放題だった。しかし今年は生ゴミがあまり溜まらないうちに回転率よく交換していったので、タライの間の隙間がぴたっと閉じ、産卵しづらくなった。……しかしこれも、ある程度は効いているかもしれないが、層の隙間にこびりついている新鮮な黄粒々が目撃されているため、主因とは考えられない。
★仮説3/雨が降った後に、庭土からミミズがいっせいに這い出て塀やベランダなどコンクリート面にへばりついているのを見つける端から捕まえてキャノワームに戻してゆく、というのを今年は精力的に行なった。台風のときなど、大量に入れてやったからなあ。こうした適宜空爆戦法が効いて、ミミズ的環境が絶えず保持され、アメリカミズアブの繁殖に有利な土壌ペーハーが実現されにくくなった。……しかしこんなことであの強力なミズアブ幼虫どもがへこたれるだろうか……? どうも主因とは考えにくい。
……というわけで、謎なのである。あのアブ幼虫たち、あれほどのあいつらが……。ミミズ愛好家たちはミズアブ退治に苦慮しているようなので、私のこの状態はモデルケースとして貴重かもしれない。仮説2と3が組み合わさって、相乗的にミズアブ繁殖をブロックしたというところだろうか?
ううむ……。あの壮絶なウジムシの波を今夏は見られないのかと思うと寂しい。
ミミズたちが元気なのはなによりではあるが。
ちなみにアメリカミズアブは人家の近くのみに棲息し、無人島にはいないのだそうだ。それってなんかカワイイじゃないですか。
とはいえミミズ優先主義という基本には変わりないのだが。