三浦俊彦による書評

★ スティーヴン・ウェッブ『広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由』(青土社)

* 出典:『読売新聞』2004年9月5日掲載


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 宇宙人の存在は、霊とかテレパシーのようなオカルトとは違う。そもそも私たち自身が宇宙人なのだ。地球は特別でないという地動説を拡張すれば、地球外に多くの文明があることは、科学的に必然のようにも思われる。
 しかし、四十年以上続く地球外文明探査では、地球外文明の形跡は皆無である。来訪はおろか、人工的な電波信号ひとつ検出されていない。
 地球人の初歩的な科学技術ですら、宇宙空間に通信電波をまき散らし、太陽系外へ宇宙船を飛ばしている。地球より少し進んだ文明なら、すでにあちこち行き来しているはずではないか。なのに宇宙は沈黙を守っている。理屈と観測とのこの矛盾は、地球人自身の宇宙開発が進むにつれ、ますます謎を深めてくるのだ。
 この謎を解くと称する既成の仮説を、本書は三種類に大別する。「彼らは実は地球近辺に来ている」「たまたままだ遠くにいて連絡がない」「地球以外に文明は存在しない」。
 この三種がさらに細分され、四十九個もの諸説として大配列。呆れるほどの壮観だ。UFO、恒星間飛行、文明の寿命、仮想現実、惑星形成論、地質学、進化論、言語起源論等々、自然科学はもちろん政治学や心理学や哲学にわたるあらゆる知が読み直される。「宇宙人」は、すべての学問分野の鍵を握る最も深遠なテーマであることを、これでもかと畳み掛けるのだ。
 そうそうたる諸説を検討しつくしたあげく、著者自身が割り出した五十番目のファイナルアンサーが三種のどれに属するかは、途中でだいたい見当がつく。しかし改めて明言されるとやはり慄然。「地球以外に文明は存在しない」。
 これは人間中心主義だろうか? いや逆だと著者は言う。知性は普遍的な現象などではなく、知性自身が思っているより偶然的な、二度生ずる保証のない揺らぎにすぎないのだと。人間とは何かについて、無垢な常識をひっ掻き回されたい人に最適の科学哲学書だ。松浦俊輔訳。

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