バートランド・ラッセルのポータルサイト

ラッセル関係書籍の検索 ラッセルと20世紀の名文に学ぶ-英文味読の真相39 [佐藤ヒロシ]

バートランド・ラッセル(著),若林元典(訳)『ラッセル自叙伝』覚え書

* 私家版,1996年3月/B5版上下2冊
* 原著:The Autobiography of B. Russell, 3vols. 1967-1969

* 若林元典(わかばやし・げんてん)氏略歴:大正元年長野県に生まれる。昭和11年、東大文学部卒。旧制中学校・師範学校、公立学校教員、公・私立高等学校長、駒沢大学文学部教授(昭和60年定年退職)を歴任。鎌倉市在住。
* 本書は、『ラッセル自叙伝』全3巻の邦訳(私家版)であり、国立国会図書館に納本されている。『自叙伝』原著に多数収録されている書簡は、凡例に書かれているように、本文の理解に直接関係しないとして省略されている。写真も著作権の関係であろうと思われるが、収録されていない。
 なお、若林氏は、平成15年頃死亡されたとのことである。
 (国会図書館請求記号:HD28-G1

 本書は THE AUTOBIOGRAPHY OF BERTRAND RUSSELL,vol.1,2,3の翻訳である。この原書の第1巻と第2巻が、私の手に入ったのは、1968年ごろ(第1巻は1967年、第2巻は1968年出版)であった。たまたま都立京橋商業高校長に就任したころで、じっくり読んでみようと決意したように思っている。決心はしたものの、校務のかたわら、興味本位に読むようなわけにもゆかず、時々ひもとく程度では、なかなか先に進まなかった。熱を入れて読み出したのは、1985年に駒沢大学高校長を退職してフリーになり、辞書をひいて考える時間が持てるようになってからであった
 その時第3巻(1969年初版)は、既に出版されていたが、まだ私は手に入れていなかった。その後、これがなくては九仭の功を一簣に欠く(きゅうじんのこうをいっきにかく)よりも、もっとだらしのないことに、思われたので、洋書専門店に注文を発したが、既に品切れのせいか、1年近くも待ったが人手できないので、図書館から借り出すことに決め、1995年の正月、駒沢大学図書館を訪ねた。たまたま同図書館には所蔵されていなかったが、ネットワーク検索のおかげで、長岡技術科学大学から貸与を受けてこれを複製し、プライベート・スタディの用を弁ずることができた。
 3巻が手元にそろったことで、私の学習意欲は燃え上がった。私は退職後の余生に気を使ったり、時間を持て余すことがなかったのは幸いであったが、それと同時に、この自叙伝の行間にあふれる著者の生き方に接して、激励されることが少なくなかった。

 1952年80才で4度目の結婚をし、88才で核兵器廃絶を訴え、市民的抵抗の同志とともに、反政府運動デモを扇動して、座り込みをやり、逮捕投獄された(46才の時入獄の前歴がある)のは89才の時であった(写真出典:R. Clark's The Life of Bertrand Russell, 1975)。政府の政策転換を、市民の大衆運動を通じて迫る気迫はすさまじいものがある。
 1995年私は、春から夏にかけて専ら訳出に従い、秋からは訳出原稿をワープロで印字することに努めた。そしてこの訳業を、自分の老後(に)おける精神生活の証拠として残したいと思ったが、米寿記念出版とするにはまだ早いので、無銘のままが良かろうと、ほぼ決めていた。そのとき図らずも、平成7年度秋の叙勲において、勲4等瑞宝章受勲の栄に浴することになった。このような際会は、私の老後の記念というよりも、人生の記念と言うべきであろう。顧みれば、1940年一たん戎衣を脱いで、旧制中学校の教師の職に就いてから、46年に及ぶ教員生活の間に発心して、鋭意継続した労作がここに円成したことは、まことに大きな喜びである。長い間かかったが、'歩みを進むれば近遠(ごんのん)に非ず'の感が深い。これを受勲記念出版として、後進に伝えたいと思う。
 ワープロで著述することは、果たして効率のよいことかどうか確信はないが、前回の傘寿記念の小著の経験もあり、第1、製作費が安くてすむという利点がある。しかし前回と違って、この度の訳業は分量が多いことや、内容の性質上(所々に横文字表記がある)、A5判を避けてB5版を用いることにした。それでも1冊にまとめてはバルキーに過ぎるので、上下2巻に分冊せざるを得なかった。


 凡 例
  1. 訳出の範囲は、原著の本文は全部訳したが、手紙類は本文に関係の深いと思われるものに限り訳し、その他は割愛した
  2. 固有名詞はかなり多く出てくるが、そのうち人名は、初出に限って原著のままを記載し、2回目からは片仮名で表記した。著作名は、日本語の定訳のあるものはそれに従い、他は原著のままを記載した。地名は、日本及び中国以外は、片仮名表記を原則としたが、原つづりのままの方が分かりやすいと思われるものは、そのまま記載した。
  3. 注に関して:原著の本文中又は欄外に施されているものは、訳文中の適当な箇所にカッコの中に☆を付して挿入した。原著の中の語句で解説が必要と認めたものには、カッコの中に*を付して半角文字で挿入した。すなわち訳注である。
 謝 辞

 私をしてこの訳業に着手させた動機が何であったか、今思い出せないのは残念である。第3巻が出版されていることを知ったのは、最近になってからで、書店を通じては入手できないことが分かったので、大学図書館から借りることを考えた。そのさい私のレファレンスに応じてくれたのは、駒沢大図書館庶務課の阿部博則氏である。早速所蔵館をつきとめ、貸し出しを受けて、コピーを作って郵送してくれた。その間1週間あまりで、私は立派な複製本を手にすることができた。ここで、貸し出しを許可された所蔵館のご厚意と、阿部氏の友情とに厚くお礼を申し上げたい。  平成8年1月10日