野田又夫「バートランド・ラッセル(著),東宮隆(訳)『西洋の智恵-図説西洋哲学思想史』」
* 出典:「サンケイ新聞」1968年8月15日付掲載* 対象テキスト:バートランド・ラッセル(著),東宮隆(訳)『西洋の智恵-図説西洋哲学思想史』(社会思想社,1968年6月(=上巻)及び9月(=下巻) 304pp(=上巻)及び293p.(=下巻)
* 原著:Wisdom of the West, 1959.
*(参考)野田又夫氏死亡記事等
* 『西洋の智恵』訳者あとがき
読んでみるとそれははっきり感ぜられる。こんど訳の出た部分(ギリシアと中世)ではまずギリシア哲学の起伏が見事に示されている。改めて前書とゆっくり読み比べてみたいと思うが、例えばラッセルはプラトンを新鮮な興味で読み直している、と感ぜられる。そして、「西洋の智恵」の最初の、しかも決定的な現われがギリシアにあるということが、こんどのギリシア哲学の叙述では、思想のうねりそのものにおいて描き出されている。
ラッセルの哲学史のあつかい方は、過去の思想をただ理解するのでなく、自分の立場から批判もする、ということであるが、こんどの本は前よりも客観的に書かれている。そし思想史と社会史との関係というような点は、古代末に悲劇的な一生を送ったポエティウスに因んでのべてある。蛮族の王に仕え、最後は獄死したポエティウスの遺書『哲学の慰め』があのように明るいのはなぜか。知識社会学的規定を超えて、思想が自律的でありうることを、ラッセルはこういう場合について確認するのである。
なお訳文については、哲学の術語の訳に関して意見を異にする点がいくつかあるが、全体としてよくこなれた訳であると思う。