「核廃絶へ即行動を-パクウォッシュ会議が声明」
* 出典:『朝日新聞』1980年8月26?日付* (参考)湯川秀樹「第30回パクウォッシュ会議に寄せる-「ラッセル=アインシュタイン宣言」25周年にあたって」
【ブルーケレン(オランダ)二六日=小林特派員】
二十日から二十五日までオランダのブルーケレンで開かれた第三十回パグウォシュ会議の主催者は二十六日、会場となったニジェンロード城で記者会見し、今回の会議で採択し各国政府及び全人類に対し核戦争の廃絶を呼びかける声明を発した。この「ブルーケレンの呼びかけ」は、核兵器をめぐる米ソ間の対立、軍事費の増大など、危険な状況に対し、いま直ちに効果的な手段をとらなければ、今世紀末までに破滅的な核大戦が起こり、人類は滅亡の危機にさらされると述べるとともに、これを防ぐために全世界の政府及び国民に対し、(1)米ソが軍縮交渉の再開に真剣に取り組むこと、(2)ヨーロッパ及び他の地域で核兵器及び通常兵器の製造競争を終わらせること、(3)第三世界諸国内の紛争に対する外部の干渉を排除すること-の3点を呼びかけている。
この声明によると、まず核兵器の分野では、核兵器を大量に保有する米ソ両国が核軍縮をめぐる対立を解消できずにおり、核兵器自体の数、性能とも増加し、核拡散の恐れも強まっているほか、限定核戦争あるいは生き残れる核戦争も可能との見方が広まりつつある、としている。
また、軍事費は全世界的規模で見ると、年間五千億ドルの巨額に達し、さらに年間二百億ドルのペースで増え続けており、これは人類全体、とくに第三世界の人々の生活改善のための資源をむだに消費し、その結果第三世界の不安定を招いていると指摘、人類全体が生き残るために、今回の呼びかけをただちに行動に移すことが必要だ、としている。
今回の呼びかけは、核兵器の廃絶、国際紛争の平和的解決を呼びかけている点で、一九五五年に出されたラッセル=アインシュタイン宣言の再確認といえる。
またパグウォッシュ会議に参加した医学に関する科学者グループ(十三ケ国)は、別個に核戦争の脅威を警告する声明を発表した。それは、(1)核戦争が起きた場合いかなる医学的措置も効果がない、(2)核戦争に対する民間防衛手段とされるシェルターへの避難も生き残りの方法にならない、(3)人類を核戦争から救うためには、医学的手段ではなく、核戦争が行われないようにするしか道は残されていない、の3点。パグウォッシュ会議には四十四ケ国、約百五十人の科学者が参加した。次回は来年八月、カナダで開かれる予定。