『バートランド・ラッセル短編集』序文
* 出典:バートランド・ラッセル(作),内山敏訳『ラッセル短編集』(中央公論社、1954年4月刊。207pp.)* 原著:Satan in the Suburbs, 1953, by Bertrand Russell
* 内山敏(1909~1982?)は、日本バートランド・ラッセル協会設立発起人の一人
(バートランド・ラッセル)序文
80歳にもなって新しい試みをはじめようとするのは、前例がないわけではないが、多分異例なことだろう。ホッブス(T. Hobbes, 1588-1679)が自伝をラテン語の六脚韻(in Latin hexameters)で書いたときは、私よりも年長であった。それでもやはり、意外に思うかもしれない人たちの気持ちを和らげるため、ちよっとおことわりしておいたがよいだろう。私が小説を書こうとするのを知って読者がどんなに驚かれようと、私自身の驚きよりも大きいとは思わない。自分にも全然わからぬ理由から、私は急にこの本に収めた小説を書きたくなった。それまでは一度もそんな気にはならなかったのだが。私はこの分野では批判的な判断を下す能力がないし、これらの小説に何らかの価値があるかどうかわからない。わかっているのは、これを書くのが楽しかったということと、それゆえこの小説を読むのを楽しいと思う人がいるかも知れないということだけである。
To attempt a new departure at the age of eighty is perhaps unusual, though not unprecedented. ... Each of them was written for its own sake, simply as a story, and if it is found either interesting or amusing it has served its purpose. ...