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ラッセル関係書籍の検索 ラッセルと20世紀の名文に学ぶ-英文味読の真相39 [佐藤ヒロシ]

バートランド・ラッセル「悪意のある噂話に対してとる態度」

* ラッセル関係の語学テキストからの採録です。
* 出典:佐山栄太郎(編)『訳注ラッセル選』(南雲堂,1960年7月刊)pp.38-39.

目次

Attitude taken by everybody towards malicious gossip


 悪意のある噂話に対してとる態度

One of the most universal forms*1 of irrationality*2 is the attitude*3 taken by practically everybody towards malicious gossip. Very few people can resist saying*4 malicious things about their acquaintances, and even on occasion*5 about their friends; yet when people hear that anything has been said against themselves,*6 they are filled with indignant amazement.*7 It has apparently never occurred to them that, just as they gossip about everyone else, so everyone else gossips about them. This is a mild form of the attitude which, when exaggerated,*8 leads on to*9 persecution mania.*10 We expect everybody else to feel towards us that tender love and that profound respect which we feel towards ourselves. It does not occur to us that we cannot expect others to think better of us than we think of them, and the reason this does not occur to us is that our own merits are great and obvious,*11 whereas*12 those of others, if they exist at all, are only visible to a very charitable eye.
(From: The Conquest of Happiness, 1930)

【ヒント】
 悪意のゴシップというものに対してわれわれは不合理な態度をとる。他人の悪口はえてしてしたがるのに,自分の悪口を耳にすると怒ったり,驚いたりする。自分のよい所は他人にもはっきり見えるはずだと思いながら,他人の長所はなかなか見えない。大体このような主旨だと見当がつけばよい。
【語句】
*1 universal forms「一般普通の形」
*2 irraionality「不合理」「不条理」。rational は「合理的な」「道理をわきまえた」の意味。その反対を示す接頭辞が ir- で, irregular, irresponsible, irresistible なども同類。
*3 attitude「態度」「~に対する」は towards が最も普通。
*4 regist saying「言うことに抵抗する」「言いたいのを抑える」
*5 on occasion「時々」
*6 against themselves「自分に不利な」
*7 indignant amazement は indignation and amazement と考えてよい。すなわち,「憤慨と驚き」,indignation は「怒り」であるが,特に残酷とか不正などを見て感じる「憤り」である
*8 when exaggerated[igzreitid]は when it is exaggerated と考える。ここの exaggerate は「病的に大きくする」の意味。
*9 lead on to「~になって行く」
*10 persecution mania[meini]「迫害妄想」「被害妄想」
*11 obvious=easily seen, clear
*12 whereas[hwerz]「…であるのに」


【構文】
It has apparently never ... them that ... はit~that の構文で that 以下を仮主語 it が代表している。feel toward us that tender love ... では feel は他動詞で,その目的語は love とその後の respect である。そしてここは that ... which と連絡している。the reason this does not occur ... では reason の後に why を入れて解すればはっきりする。
【邦訳】

 不合理の最も一般的な形の一つは,実際にほとんど誰もが悪意のある噂話に対してとるところの態度である。自分の知り合いに関して,時には友人に関してさえ、悪口をしゃべりたくなる気持を,抑えることが出来る人は極めて少ない。それでいながら,自分の悪口が言われたのを聞くと憤慨と驚きに心がいっぱいになる。自分たちが他人のことは誰でも噂さをすると全く同じように,ほかの人もみんな自分の噂さをするのだということに,まったく気づかないのである。これはまだ穏やかな形の態度であるが,病的に昂じて来ると被害妄想になって行くものである。われわれは自分自身に抱いているようなやさしい愛情と深い尊敬を,他人がみんな自分に対してもってくれるものと期待している。われわれが他人について考えているよりも,他人がこちらをよく考えてくれるなんて期待できないはずであるのに,そのことに一向に気がつかないのだ。こういうことを思いつかない理由は,自分自身の美点は大きくてはっきりしているが,一方他人の美点は,かりにそれがあるとしても,よほど寛大な人の目にしか映らないという事実なのである。
* 右イラスト:Russell's The Good Citizen's Alphabet, 1953状より)