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ラッセル関係書籍の検索 ラッセルと20世紀の名文に学ぶ-英文味読の真相39 [佐藤ヒロシ]

バートランド・ラッセル「急速な時代の進歩、環境の変化」

*出典:(語学テキスト)佐山栄太郎(編)『訳注ラッセル選』(南雲堂,1960年7月刊)pp.174-175.

目次

What has happened during my lifetime.


「急速な時代の進歩、環境の変化」

But even in a country like our own, where industrialism is old, changes occur with a rapidity which is psychologically difficult*1. Consider what has happened during my lifetime.*2 When I was a child telephones were new and very rare. During my first visit to America I did not see a single*3 motor-car. I was 39 when I first saw an aeroplane. Broadcasting and the cinema have made the life of the young profoundly different from what it was during my own youth. As for*4 public life, when I first became politically conscious*5 Gladstone*6 and Disraeli*7 still confronted*8 each other amid Victorian solidities,*10 the British Empire seemed eternal, a threat*11 to British naval supremacy*12 was unthinkable, the country was aristocratic and rich and growing richer, and Socialism was regarded as the fad*13 of a few disgruntled*14 and disreputable*15 foreigners.

【ヒント】
 筆者自身の経験から見た世の中の急激な変化を述ぺている。機械文明の方面ではどんな目に見える変化があったか、政治思想ではどうであったか。
【語句】
*1 psychologically difficult 「心理学的に難しい」、すなわち,「心理の上では歩調が合わせられない」の意味。
*2 lifetime 「生涯」「生れてから死ぬまで」 もっとも生きている人の場合なら,「生れてから現在まで」
*3 a single は強意の表現で「ただの一つも」の意。
*4 as for 「~については」
*5 politically conscious 「政治の意識に目ざめる」
*6 Gladstone(1809-1898) 政治家で自由党の首領,前後四回首相になった。
*7 Disraeli[dizreili)(1804-1881)は,Tory 党で,首相に二回なった。
*8 confront 「対立する」
*9 Victorian solidities 「ヴィクトリア朝の堅実な状態」
*10 Queen Victoria の治世は1837年から1901年にわたる長い期間であった。
*11 threat 「脅威」
*12 naval supremacy[sju:premcy] 「海軍の優越」「海上の覇権」
*13 fad 「一時的熱狂」「きまぐれ」
*14 disgruntled = discontented. 「不満な」
*15 disreputable 「評判のわるい」

【構文】
which is psychologically difficult はもちろん前の rapidity の修飾節であるが,内容的に面白い節である。made the life of the young profoundly different では profoundly different は目的補語になっている。from what it was の it は the life of the young を指す。
【邦訳】
 産業主義が古くからあるわれわれ自身のような国においてさえ,世の中の変化は心理学的にはついて行けないほどの速度で起る。私の生涯のうちに起ったことを考えて見られよ。子供の時は電話は目新しいもので,極めて珍しかった。アメリカヘの最初の訪問の時には自動車はただの一台も見かけなかった。私が飛行機を初めて見たのは三十九才の時であった。放送と映画は若い人たちの生活を,私の青年時代のそれと甚しく違ったものにしてしまった。公の生活について言えば,私が初めて政治的自覚をもった時には,グラッドストンとディズレーリーが,ヴィクトリア朝の堅実な地盤に立って,まだ相対時していた。英帝国は永遠の存在のように見え,イギリスの海上覇権を脅かすものなどは考えられもしなかった。この国は貴族的で裕福で,増々裕福になりつつあった。そして社会主義などというものは,不満分子で,評判のわるい外国人の少数の輩の,一時の気まぐれと見なされていたのであった。