バートランド・ラッセル「理性的動物」
* 出典:『ラッセル思想辞典』所収* Source: An Outline of Intellectual Rubish, 1943;
Repr. in Unpopular Essays, chap.7, 1950)
'人間が理性的動物である'と最初に明言したのはアリストテレスで、それは'算数の問題を解ける人々'がいるとの意味であった。
そう言明できる証拠を探して、私は3つの大陸を歩いたが、その幸運にめぐり合えなかった。逆に、非理性的に気狂いじみた状態に落ちてゆく人間を見た。
人類は、個人では殺せない野獣の猛威から逃れ、不安から洞穴に隠れ、果実をあさる樹上時代から様々な時代を経て今日に至った。近代以降、人類の発展は小さな国々から「実質的」独立を奪い、遂に全面的独立の自治可能な国は今や2つしかない。不幸から人類を救うのに必要なすべてはこの2国、米ソに握られている。(松下注:もちろんこれは、1943年頃のこと)
戦争の道ではなく、合意による世界政府への道を人類は等しく求める。もしこの歩みが成就すれば、今まで夢想だにされなかった幸福と安定の時代が始まる。その実現への技術的条件は備わっていて、手の届く所にある。今日、欠けているものはただ一つだけだ。
人間の闘いは、(1)自然・野獣との闘い、(2)人間と人間との闘い、最後に(3)人間自身の自己との闘いの3種である。
現在の瞬間は人類にとって、これまでで最も重要かつ切実な瞬間である。人類はこの己との闘いにおいてただ1つの欠けたものを掴むかどうか、栄えるか自滅するかの瀬戸際にある。
掴むべきもの、行うべきことは、核兵器を前に権力を握る人々と彼らを支持する人々とが、己に克ち、敵を殺さず、自分自身を生かす方に最大限努力することである。人間の理性か到達できる理想に向かって、理性的動物として、人間全体が知恵を発揮することでしかない。