バートランド・ラッセル「英国パブリック・スクールの評価」
* 原著:Ecucation and the Social Order, 1932, chap. 6* 出典:牧野力(編)『ラッセル思想辞典』』
どんな社会制度も、それぞれの制度に都合の良い教育手段を持っている。英国の寡頭政治の場合は、パブリック・スクール(例:イートン、ハロー等)制度がそれに該当してい「た」。・・・。
心理学的にいって、英国の大学予備校とパブリックスクール制度の最も重要な外見上の特質は、少年を人生の初期に、家庭とすべての女性の影響力とから引き離し、上級生の意地悪や仲間の敵意に曝し、母親の愛情に甘えたいという欲求に無関心であるふりをさせ、自分で抑制できない不満(感情)を、専ら他の子供達にぶちまけざるを得なくしてしまうという点にある。・・・。感受性あるいは知性が並外れていない子は、鎧をまとい、無表情をよそおう術を身につける。学校生活においては、力と栄光とを夢みて、他のすべての目的を棄てる。・・・。高学年になって、後輩からの尊敬と後輩への権威が初期の不幸を忘れさせる。そうして40歳になるまでには、この学校生活が人生で最も幸福な時代だったと考えるようになる。だが、この幸福は、実はつまらぬ権威を振り回し、重要でない功績で勝ち得た尊敬とによるものにすぎない。
( Every social system has its appropriate educational instrument, which in the case of the British oligarchy was the public school - Eaton first and ...
Pshychologically, the most important aspect of the preparatory and public school system is that, at an early age, it removes a boy from home and from all feminine influence, leaving him exposed defenceless to the ill-treatment of older boys and the possible hostility of his contemporaries, compelled to keep to himself all the desire for kindness and mothering which he retains from childhood, and obliged to centre such sentiment as he cannot repress exclusively unpn other boys. ... and by the time he is forty he thinks that his school years were the happiest time of his life. But his happiness, such as it was, came from the exercise of trivial authority and the admiration which he received for unimportant merits.)
・・・。彼は支配できる人達や彼を神様のような存在として崇めてくれる人々を求める。そして、未開の人達、少なくとも彼自身は非文明的と考えるような人達のなかに入って生活しようとする。彼は英帝国の建設者、西欧文明を宣布する使者等になりすます。「原住民達」が、かつて学校で下級生がしてくれたように、彼を崇めてくれれば、万事うまくいく。すなわち彼は、親切で、慈悲深く、高潔で、よく働く。孤独や逆境でも克己心を示す。・・・。
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・・・。しかし東洋人のような相容れない文明の保持者に接すると、対応に失敗して哀れな存在と化す。・・・。
この失敗の原因は、知性と心理との両面から来るものであり、パブリック・スクール精神が(科学的)知性を軽蔑した教育実践であることの結果である。教師は、主として運動方面での特技で選ばれる。だから知性ある者には耐えられないような慣例の遵奉を生徒に求める。・・・。子供は精神的独立の芽をもぎ取られ、型にはめられ、卒業後の人生で、何か他の重要な事柄を学びとる能力まで摘み取られ、ある型の完成品として、校門から送り出される。