バートランド・ラッセル「哲学のわかりにくさ」
* 原著:Philosophy's Ulterior Motives, 1937Reprinted in: Unpopular Essays, 1950
* 出典:牧野力(編)『ラッセル思想辞典』所収
哲学は今まで、「物事を明噺に考えようとする一つの異常なまでに粘り強い試み」と定義されて来た。私はむしろ、「物事を間違って考えようとする一つの異常なまでに器用な試み」と定義したい。
哲学者の気質はめったにないものである。なぜなら、それは二つのいくらか矛盾した特徴を兼ね備えていなければならないからである。即ち、一方では、宇宙あるいは人生についての何らかの一般命題を信じたいという強い欲求という特徴と、他方では、知的な根拠があると思われるもの以外は信じることはできないという特徴(=会議精神)の、両方の特徴を持っていなければならない。
哲学者は、深遠であればあるほど、知的黙認という望まれる状態を創り出すために、彼の誤謬はより複雑かつ巧妙なものでなければならない。それが、哲学がわかりにくい理由である。
全く知性的でない人間には一般理論は重要でない。科学者には、実験により検証される仮説がある。ところが哲学者にとっては、その理論がたとえ精神的衣裳であっても、知的にはむずかしい作業内容である。
哲学者は推理の長い鎖をたぐる過程で、遅かれ早かれ一瞬の不注意から己の誤りを見破れずに、そのままずるずると先へと進む。そして、己の思弁の敏捷さによって、ひどい偽りの沼にはまり込む。
Source: Bertrand Russell : Philosophy's Ulterior Motives, 1937
Reprinted in: Unpopular Essays, 1950
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