バートランド・ラッセル「ウィトゲンシュタインの晩年の著作」
* 原著:R.カスリルズ、B.フェインベルグ(編),日高一輝(訳)『拝啓バートランド・ラッセル様_市民との往復書簡集)』
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'・・・。『プリンキピア・マテマティカ』のなかの記号体系が論理学者用にデザインされたのと同じように、ヴィトゲンシュタインは、その仕事の初期の段階において、哲学者用にデザインされた特別な言語の必要性を感じたことは明らかです。しかし、かれの後期の段階においては、そうした装置(device:工夫)に重要性を付与しようなどということは、もはや考えなくなっていたように思います。
あなたの著書を読んだかぎりでは、あなたはかつて、哲学者のための人工言語の創造が有用な装置(device:工夫)になると考えられていたのかどうかよくわかりませんが、もしもそうであるならば、現在でも人工言語は有用なものであると考えておられるでしょうか。あるいは現在では、ヴィトゲンシュタインが人工言語は有用ではないという考えに変わったように、あなたも考えを変えられたでしょうか。・・・。
わたしはウィィトゲンシュタインの後期の仕事は、おそろしく失望させるものだと思っています。かれは、言語学の些細なことがらのまわりをぐるぐるさまよっているような感じであり、数ケ国語に通じる者から見ればいたって些細なことであると思われるような事柄に自分の心を奪われているように思います。・・・。'
ラッセルからの返事(1959年10月12日付)
拝 啓10月8日付のお手紙ありがとうございます。ウィトゲンシュタインの後期の仕事について、あなたとわたしが同じ意見であるということがわかりたいへん嬉しく思います。
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わたしがこうした意見に到達してから長年になりますが、それは、ウィトゲンシュタインの影響を大きく受けたからとは思っていません。
敬 具 バートランド・ラッセル
'... Philosophers puzzle themselves by observing that the past does not exist and the future does not exist, and fail to observe that they are the slaves of a linguistic defedt. ...'
(From: Dear Bertrand Russell; a selection of his correspondence with the general public, 1950 - 1968. Allen & Unwin, 1969.)