ザハトポルクの残酷シーン(松下彰良 訳)
『悪夢』の中のある小説を創作している時,私はある面白い体験をした。その小説の主人公はフランス人で,彼は自分の悲しい運命をフランス語の詩にして嘆いている。ある晩,'the Ecu de France'(注:フランスの紋章/ロワール川の対岸の町 Bourgueil にあるロジ・ド・フランス L'ECU DE FRANCE のことと思われる。)というレストランで夕食をとっている時,私は,この主人公の言うべき最後の言葉を,最良のフランス語の古典様式 -であればよいがと思うスタイル- で朗読し始めた。そこはフレンチ・レストランだったので,客はフランス人が主であった。客のほとんどが驚いてこちらを向いて私をみつめた。そうして彼らは,私が未知のフランス詩人で,偶然このレストランで遭遇したのではなかろうかと思案しながら,お互い囁きあっていた。彼らがどれほど長い間疑問に思い続けたか,私にはわからない。 別の悪夢は,アメリカのある精神分析医から示唆を受けたものだった。彼は一般的に用いられている精神分析(の手法)にいささか不満を持っていた。彼は,全ての人を平凡な(退屈な)正常状態に持っていくことができると思っていた。そこで私は,シェークスピア作品の中の,(一般人よりも?)より興味ある主人公たちが一通り精神分析を受けた後の状態を描こうとした。その夢の中に,シェークスピアの頭部だけが現れて話しかけ,次の言葉で話を終えた。「おお主(神)よ,これら人間どもは何と愚かなことでしょう!」 私は,そのアメリカの精神分析医から,そのような見方に賛成だという手紙を受け取った。 (松下注:「'英雄'あるいは'抜きん出た人々'は,世間一般が言ういわゆる'正常な人間'ではない。正常でないからといって,彼らを精神分析的治療によって'正常な'人間にしてしまったら,何とつまらない人間に成り下がってしまうことか,精神分析医のあなたはそのように思いませんか?」ということを言いたかったのだと思われる。) |
v.3,chap.1: Return to England I had an amusing experience with one of the Nighmares while I was composing it. The hero was a Frenchman who lamented his sad fate in French verse. One evening at dinner in the Ecu de France I started to declaim his last words in what I hoped was the best French classical style. The restaurant, being French, had a clientele mainly composed of Frenchmen. Most of them turned round and gazed at me in astonishment, then whispered together, wondering whether I was an unknown French poet whom they had hit upon by accident. I do not know how long they went on wondering. Another Nighmare was inspired by a psych-analytic doctor in America who was somewhat dissatisfied by the use commonly made of psycho-analysis. He felt that everyone might be brought to humdrum normality, so I tried portraying Shakespeare's more interesting heroes after they had undergone a course of psycho-analysis. In the dream, a head of Shakespeare speaks, ending with the words, 'Lord, what fools these mortals be.' I had an approving letter from the American doctor. |
(掲載日:2009.06.21/更新日:2012.2.9)