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ラッセル関係書籍の検索 ラッセルと20世紀の名文に学ぶ-英文味読の真相39 [佐藤ヒロシ]

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「狂気の時代-核に覆われた世界」

* 出典:『朝日新聞』1974.10.23(水) 「天声人語」
索 引



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・国連の軍縮討議で米代表のサイミントン上院議員は「米国は広島型原爆の六十一万五千三百八十五発分に相当する核兵器を現在所有している」と述べた。彼は、「核兵器のふくれ上がる現状をこのままほうっておけば、核の方が人類をのみ込んでしまう」という警告として、この数字を明らかにした。
・広島の原爆が1個で十万人を殺したとすれば、米国の核兵器は六百十五億人を殺せることになる。世界中の人間を十六回殺せる量だ。また米国側の別の資料によれば、ヨーロッパに七千発、アジアに三千発が配備されているという。
・米国のほかにソ連に二千六百発、中国に二百発、英国に百九十二発、フランスに八十六発の核兵器があるという推定もある。もし人類が生き残り、後世の史家が二十世紀後半を論ずるとき、何というだろうか。「狂気の時代」となづけられそうな気がする。
・彼らはこう言うかも知れぬ-当時の野蛮な人間たちは自分たちを数十回殺せるほどの殺人兵器を持ちながら、それを止めることができなかった。自分だけ先にやめれば不利になると、A国も、B国も、C国も言い続けた。核兵器をなくすために核兵器を持たねばならない、と言う国も現れた。中世の魔女裁判、近世の宗教戦争に比べても、人間たちがなおいっそう狂気にかられた時代だった、と。

狂気の時代には、正気なことを言う者が狂気じみた人間にされる。4年前、97歳で死んだ英国の哲学者バートランド・ラッセルが過激な異端者に見えたのも、そのせいだろう。彼は、「人類が生き残ること-これがすべてに優先する。文明も繁栄も、自由主義も社会主義も、それは人類生存が前提である。」と言った。
・死を間近にして、この偉大な哲人はこうも語っている。「人類に未来があるか、あるいは破滅か、その解答の出ないまま私は死んでいく。ただ私の最後の言葉として遺したいのは、人類がこの地球に生き残りたいと思うならば、核兵器を全廃しなければならない。」//