![]() ラッセル協会会報_第3号 |
「この講演で、考えてみたいと思っております基本的な問題は,進歩に必要な個人の創意と、人間が生存をつづけるために必要な社会的団結とを、どのようにしてほどよく調和させていくことができるか?,ということであります。われわれ人間の性質のうちにひそむ衝動の中で、社会的協力を可能にするもののことからお話し致しましょう。
先ず最初に、そうした衝動がきわめて原始的な社会に現わした形態を、それから文明の進むに従ってだんだんと変わって来た社会組織によって、その衝動がどんなふうに適応性を現わしたかを検討しましょう。
次にいろいろの時代といろいろの国における社会的団結の広さと強さを、(今日の共同社会と、そして、あまり遠くない将来における一層の進歩の可能性に言及しながら)、考察することにしましょう。
社会を結合する力について、以上の討議をした後で、社会における人間生活の他の面、すなわち個人の創意に論及し、個人の創意が人類の進化のいろいろの段階において演じた役割、現在において演じている役割、および個人と団体の中に将来創造性が多すぎたり、少な過ぎたりすることのある可能性を説明致しましょう。
それから、現時における基礎的な問題の一つ、すなわち現代の技術が、組織(国家その他の団体)と人間の性質(人間性)との間に導入した(=もたらした)衝突――このことを他の方法で説明するならば、創造欲と所有欲の二つの衝動を、密接な関係があったと考えられた経済的動機から引き離したことでありますが――そうした問題へと進んで行きましょう。
わたしは、この問題を説明した後で、その解決に向かって何が為され得るかを検討し、最後に、個人の思想と努力と想像力とが、共同社会の権力に対して有する関係全体を、一つの倫理問題として考慮することに致しましょう。」